archivist_kyoto の雑記帳

ネタを考えるための雑記帳です。 NO HUG NO LIFE

フレデリック・ワイズマン『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』(2017)についてのメモ

前口上

そりゃ、本郷の住人になれば岩波ホールにも行ってみようと思うわけで、行く以上はこれを見るしかないとなり、映画の性質上、暗闇の中でもメモを取ることになり、そのままでは全く読めないので、整理してたら(しようと思って友人に話したら)ブログで出しとけ、ということになって、そのまま出してます*1

もいっこあるとすれば、3時間25分+休憩10分という長時間を使ったもとを取りたい、というのもあります*2

ということで、ネタバレ上等/でも1回見ただけの闇鍋メモなので、以降は、これから情報遮断で映画を見ようと思ってる人、NYPLの確実な情報が欲しいと思ってる人、には不向きです。

また、映画を構造的に見るとかしないし、ワイズマンのもわずかしか見てないし、このために改めて情報を集めるとかしてない*3ので、かなり見当はずれです。ということで突っ込み歓迎。もちろん作法通り「カチン」と反応する場合もあります。

なお、読んでいただく大前提として、日本の図書館関係者が全員読んでることになってる、以下を抑えている上でってことになってます*4

未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告― (岩波新書)

未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告― (岩波新書)

 

 

前提

上記の菅谷本のほかには、そりゃまあ以下などを。

moviola.jp

book.asahi.com

moviola.jp

この「『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』 公開記念パネルディスカッション ニューヨーク公共図書館と<図書館の未来>」という企画、会場におりました。で、メモもとったけど、このレポートで十分ですね。非常にヒントがあって、あとでも触れます。

なおなお、ちょっと見てるて、今の勤務先に関わる以下も発見。
この段階ではまったく外部者だったんですが、ちらちら動向は知ってて、そうね、この通りに行っててもよかったよね、というちょっとつらい気持ちになったところでした。

www.huffingtonpost.jp 

見る心得

体力と気力いります。あと座席は最前列でも全然大丈夫。なんなら端っこでも。なぜなら、非常に広い舞台の奥にスクリーンがあるから。なぜにと言うと、ここいらを参照。戦後のハイカルチャーの発信地でござい。

www.iwanami-hall.com


ということで、映画館じゃなくて戦後型文化ホールとすると、特段に静かに映画見ろ、という体になります。勢い、食事は禁止、開始後の入場も禁止。腹ごしらえして、時間に余裕を持って行きましょう*5

なお、パンフ購入は必須です。僕はよっぽどでないかぎり、図録とパンフは買う主義者、かつ今回は上記の4月のイベントでもらってたのですが、今回は図書館関係者には特に必須。絶対にあとで必要になります。あと、購入は開始前でも開始後でもよいけど、本当に映画の内容を頭に入れたいなら、開始前にパンフのストーリーの部分だけでもを読んどいた方が良いと思う。

では、メモ起こし。もちろん情報を最小限捕捉して、言葉は足してます。なおなお、以下で、S1とか書いてあるのは、パンフのストーリーの説明順と対応してます。

メモ起こし

S1 ドーキンスの講演。最初にこれ持ってくるのは科学の館の宣言だろうか。本館のエントランスですよね。これ。

S2 人定の質問が多い。そして、一瞬、利用者がスマホで資料撮影するところが印象的。

S3 さっそくの資金集めの活動場面。民間資金と公的資金の好循環を目指す。21世紀を生きるためのネットの重要性。その目標に民間寄付でなにが可能か、世界に見せよう。

S4 最初の分館の場面。画面は全員ボランティアという把握だけどよい?

S5  奴隷制に分析について研究者が語る。ちょっと極端な主張にも思うがそのまま流す。

S6  ホールのコンサート

S7  ブロンクスの就職WS。消防局ここにきて、楽な仕事もあるよ、とか言ってる。911の話もするのかもだけど、そこは切り取ってない。あと陸軍いた。建築とか起業とか、そのためのPC講座とか。まあ本気での展開。

S8   幹部会議。トレーラーに出てた象徴的なやつ。映画全体の基調にも連動する会議で、分館は教育施設に全振りする方針が議論されてる。

S9  ピクチャーライブラリの場面。学生に向かって、アーティストはみんな使ってきた、と。デジタルマイクロだー

S10  デリがユダヤ街のハブになるよという話

S11 ここでエルビス・コステロ登場。むっさサッチャーを攻撃中

S12 再び幹部会。社会の在り方を構想し、そのためのデジタルデバイドをなんとかしましょう、と熱くプレゼン。予算配分についての注釈的な意見はつくが、面白い。

S13 エントランスのコマンヤーカ。

S14 分館で、チャイニーズの中高年にPCの基礎的操作をレク。

S15+S16  点字の読み方のレクなど。市全体の施策の一部としてのと分館における障碍者対応が強調されているか?

S17  分館新築のためのスタッフ説明会。建築家が理念語る場面は僕もスタッフとして立ち会ったことがある。

S18  演奏会。

S20  読書会。

S24 みたび幹部会。社会の在り方を構想し、そのためのデジタルデバイドをなんとかしましょう、と熱くプレゼン。予算配分についての注釈的な意見はつくが、面白い。

S25 舞台芸術図書館での手話通訳者へのレク。感情をどう表すかでカジュアルに憲法登場。

S26  デジタル撮影の現場。これ内製かなあ。あと、返却本の振り分けの場面が非常に印象的。ものすごく粗い扱いで、非常に長いベルトコンベヤに振り分けて、バーコード読ませて、送るべき分館に自動で振り分けてる。本がコンテナのなかで、ページ開けて斜めになってる部分も映る。この粗さは、向こうを見てる友人によると普通、とのことだけど、マジに消耗品ですね。これ。

S27  分館の10代に如何に来てもらうか会議。本館から幹部が来てる。会話から実績出してる数学プラグラムの中心人物はボランティアだと思ったけど、どうかな?

S28  見た人に評判のモバイルルーター貸し出しの場面。しかし、実際は超アメリカの役所っぽくて、みんな狭いカウンター前で大行列してて、でも手続き担当は一人かつ、人あしらいもまあ粗い粗い(笑)。その点、S24の熱い幹部会議との対比になってるかも。

S29  おどる老人。

S30 分館の子供向けイノベーションラボ。単純なモジュールによるロボット操作。まあでも大騒ぎですよ。狭い空間を巧みに撮ってる。

S31 Schomburg Center for Research in Black Culture の90周年パーティ。キュレーター、アーキビスト、ライブラリアン、スタッフという謝辞があっって、デジタル化やって文化残すし発信するでってところに感じ入った。そうっすよね。

S32 子供の歌の次が、

S33 バーグコレクションをためつすがめつする研究者たち。

S34 幹部会。ホームレス対策。市民としての観点で、館長はまあそこは理想論を言う。普段は距離が遠いから気にならない、図書館は近くなるからみんな気にする。さすれば、普段の距離が、街の文化が課題では、と。

S35 版画コレクション。

S36  スタッフミーティング。中堅幹部?が、スタッフに行政ミーティングや地域コミュニティへの参加によって図書館の重要性を訴えて、とあおる。セクションや分館で普段は分断されているけど、同じ仕事、全体を見ろ!と。みんなの力で達成してきてる、もう少し、と。

S37  ナボコフのきわどいシーンをハンサムが甘い声で録音してる画面ながなが続き、切り替わって、車いすのスタッフが大量の録音テープに発注票を次々挟んでほおり投げてるシーン。テープの扱いが荒い粗い。シークエンスの中での対比。

S38  分館での専門的なレク。リンカーンとフィッツヒューが登場して話が展開。そしてマルクスの問題が軸になる。これ、大学の講義でも十分ですよね。すげー。

S39  ハロウィンのパレードが挟まったあと。ホールイベントでパティスミス。

S40 分館の修理についてまた熱く語る施設担当者。予算の限り直す。

S41
 幹部会。e-bookへの殺到が始まっている状況が描写される。そして社会的使命のためか、人気のためか、という資料選択の議論がここでも。社会的使命だろっと館長が言い切る。そうでないといけない。一方、子供用・教育用資料はS8の会議の方針に基づいて買うことに。

S42+
S43+S44 ボードの会議。準備から。NYPLにとって非常に重要であることが強調される構成。

S45
 ホールの講演。激賞されるマルコムX。会場からちょっと失笑もあった気がする。

S46 
 次の年に向けての幹部会議。政治的メッセージこそ重要、というごくまっとうな議論が。

S47
 分館のスタッフと住民の対話。教師が堂々と教科書批判をするという。マグロウヒル社のは許せんらしい。これはかじ取りが大変な状況だと思ったけど、本館からのスタッフ?はさすがにまとめてきてた。

S48
 ホールの対話。創作に対する心得がピックアップされて、映画の主張にも塚がっているかのような。そこからの映画のテーマ曲になってるコルドベルク変奏曲へのつなぎがかっこいい。

 

全体への注釈

以下は、全体を通じた気付きを、当日のメモから拾ってきて再構成したもの。こっちはもとのメモにかなり書き込んでる。

〇構成
研究図書館、幹部会議、講演会やコンサート、分館の状況、という4つのセクションが、交互に登場していく構成。
そして、上記のようになんとなくシーンごとにメモ取れたのには訳がある。シークエンスの切り替えに街の情景や館内の引きの絵が入る。だから変わるんだな、ってのがナレーションとかなくてもわかる。そしてそこで印象的なのは、本館で写真を撮る観光客がこれでもか、と出てくること。なんだろう、本館の象徴性なのか、なんなのか。まあ、この切り替えの場面が映画が長い原因でもあるんだけど、考えをまとめ、次に身構えるには良い長さかも。

〇音声
非常にクリアなのも特徴。見てると録音機材が会議テーブルのど真ん中にちらちらある。そうかといって、そして彼らが如何にはっきり話すといってもかな印象的。たぶん、これは意図的にいじっているんじゃなかろうか。すごく意味がある編集。

〇書架と書庫
書庫がまったく映らん。そして開架書架にもフォーカスしない。
これは非常に面白かった。ワイズマンはたぶん、本の在り方そのものはこの映画では描いてない。図書館をめぐる人と集まりと活動に絞ってる。
物理の資料が映るのって、利用シーンか(これは非常に多い)、貴重なものが丁寧に扱われてるか、モノ的に粗くスタッフが扱っているところだけ。

〇訳語
気になったのは2個。
political leader が単に〈政治家〉になってたのは気になる。ここで登場する語感だと〈有力者〉ぐらいでもよかったかも。
physical books? も〈紙の本〉なんだけど、物体が問題さ、って感じだったので、もう〈ものとしての本〉ぐらいでもよかったかも。なんか紙の本って日本語世界だと妙に神聖化されてて、理解が及ぶかどうか。
いや映画の翻訳が特段に難しいのは承知してますし、僕の英語力は0なのでなんともですが。

おわりに

ということで、多くのみなさんが気が付いていることもあるよね、と思いながら、重複を恐れずメモを起こしてみた。

その上で、何よりも留意したいは、撮影が2015年秋だったこと。
NYPLの最新の状況では決してないのです。これは、上記のイベントでウェルチ氏が強調されていたことろで、もうフィジカルかeかみたいな議論は終わってて、ともかく情報を最大限の手段で提供するのだと。一方で、トランプへの助走の状況ともいえるわけで。

普段はまったくしない、映画のメモなどを投げてみました。なんかの参考になればと。



ところで、あなたの理想の社会ってどんな社会ですか?




 

 

*1:あと前の勤務先のイベント支援の意味もある。僕は当日おりませんが、まあ担当者が奮闘してるので。

www.library.pref.kyoto.jp

*2:試写会のご案内もいただいていたんですが、行ってみたら満席で断念ということもあった復讐でもあるw。

*3:だって当日のメモの起こし中心だから。

*4:恥ずかしながら、僕は遅くて(そりゃその時は図書館関係者じゃないしね)、2012年2月の段階で読んでるようです。

なんか違う人宛になってるけどありがとう。助かる助かる RT @egamiday: …こういうことかな。http://t.co/i2uAGd1B: 未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告― (岩波新書): 菅谷 明子: 本 http://t.co/pILE9s5x

— FUKUSIMA,Yukihiro (@archivist_kyoto) February 19, 2012
 

*5:チケットの一種の不便さもこの論理で多少は理解できるかと。単館系ってまあこのパターンが多いような気がしますが。